夫の鬱


夫はたいそう先行きが不安だと、わたしに言った。
「だいじょうぶ。ただ働くだけよ。それでダメならそのとき考えればイイから。だいじょうぶ。」とわたしは言う。夫はずいぶん前から鬱なのだ。その原因について二人の間では一致している。あの仕事のせいだと。でも夫は止めない。二人のガキの教育費がいる。「あなた、薬のんどきなさいよ。」「のんだよ。あのさ、あの先生自身が鬱なんだよ。さんざん聞かせられたよ。おかげですんごく疲れたよ。」
「へえ。すごいね。」とわたしは答える。自殺してしまった中年男もゴロゴロいる。将来が不安になったとき、男は思い出すんだろう、自分にもしものことがあったら家族が困るだろうと生命保険に入っていたことを。
「あなた。生活のレベルが落ちることなんて恐くないんだよ。子どもだって大学なんぞ行かなくても死にゃあしない。あたしにまかせなさい。」と夫に言ったことがあるけど、彼は苦い顔をした。
生きてさえいれば、自分がシアワセだと思えばシアワセなんだから、あなた。シアワセなんてその辺にころがってるのよ。