吉岡秀隆と寅さんの美学

あたしは脳のどこかに欠陥があるのじゃないかとおもう。人の顔をうまく見分けられないときがよくあるんだ。うり二つだと思えるほど似ている人たちだと思っていると、全然似ていないよ、と言われたりもする。
あたしは北の国からの純を時々見ていた。とても好きなときもあった。でもそれだけの話しで純のことは忘れて・い・た・わ・け・で、「ALWAYS 三丁目の夕日」で久しぶりに彼を見、そして、突然、素敵なDr.コトーに出会って(二作品とも、北の国からの純の表示があった)、びっくりした・・はずだったんだけど、彼の作品を調べていて、愕然とすることに、あたしは、満男もときどき見てたし、「八月の狂詩曲」「まあだだよ」「雨あがる」「阿弥陀堂だより」「博士の愛した数式」「半落ち」「ジュブナイル」「海は見ていた」「釣りバカ日誌12」「鉄道員」「隠し剣 鬼の爪」「学校2」「四日間の奇蹟」「ラストソング」も見ていたのだ。特に、「学校2」「四日間の奇蹟」「ラストソング」は主役級である。でも純には全く結びついていなかった。「四日間の奇蹟」は、ある瞬間に主役の男性に懐かしさをおぼえ、どうしても彼を知っている、という気がしてならなかったのだけど、想い出せなかった。そしてその見知らぬ(と思っている)男優は静謐なちょっと飛び抜けた演技をしていて、でも肝心の女優二人がそれについていってなくて(対抗出来ていなくて)、なにかちぐはぐなドラマだなあとおもったので流したのだった。
呆然としてあたしはいろいろなDVDを見直した。
「寅次郎紅の花(48)」、この寅さん最後の作品は見ていなくて、悲しいながらも感動。なんというかあたしは結構、「男はつらいよ」を見ているわりには、寅さんの美学が好きじゃない。理解できない。で、寅さんが満男に例の美学を講釈していると、浅丘ルリ子が啖呵をきる。「なにいってんだい。かっこつけるな。恋なんてかっこわるいもんなんだ。満男くんのやったことは正しい。自分だけがかっこいいとおもって肝心の女のほうを置き去りにするな!」みたい、みたいなことをいうわけだけど、あんなにすっとしたことはない。
最後の最後にきて寅さんの美学を粉砕しようとするのは女の愛情である。めでたしめでたし・・とはならず、寅さんはやっぱり自由人だった。そう思うことにする。
たぶん、なんとなく、寅さんの美学は渥美清さんが持っていたコンプレックスやら自尊心やらの独特の雰囲気に山田監督が目をつけて出来ていったのではないかしらとか想像してみるのだけど、そうすると、満男にそのかっこつけ美学を継承させるわけにはいかない。吉岡秀隆の持ち味ではないのだから。それで満男の恋というのは、愛していると勇気をふりしぼるけど、「決意」がないわけで、だから「虹をつかむ男 南国奮闘篇」で、彼に、愛しています、と言われた小泉今日子は泣くんである。「決意」のない吉岡の恋は「情けない」ものにしかならない。そうなんだ、ここで完全に「男はつらいよ」は終わったんだなあ、とおもう。「情けない恋」なんて山田監督にとっては建設的になるかそのまんまかどっちかに転ぶしかないわけで、シリーズ化しようがないもの。
ところが、面白いことに若い山崎監督が「三丁目の夕日」の茶川に、この「なさけなさ」を継承させたとみることもできるのではないかとおもう。たぶん吉岡の「情けない恋」はもっすごく今どきの若者のプロトタイプである、とおもう。だから、若い監督でなければならなかった・・。とおもう。
山田監督は「学校2」で彼に賞を取らせたかったんだとおもうけど、彼に賞を取らせたのは彼をちっちゃな子役の時から手塩にかけて育ててきた山田監督でも杉田監督でもなく、若い山崎監督だった、というのはあたし、ものすごく感慨深いんだ。「男はつらいよ」と「北の国から」が終わって、一年後くらいにDr.コトー、茶川の活躍が始まるんだもの。(吉岡秀隆オフィシャルサイト
吉岡秀隆の動画でのインタビューとかを見ると、「三丁目の夕日」の中で一番好きなシーンは鈴木オートと二人並んでお金をやり取りする所だと言っている。茶川はそのとき鈴木オートに「家族ってなんなんんでしょう」みたいなことを聞くのである。なんつうかこの広がりかたは、面白い。シリーズ化しようとおもえばできるんだろうなあ、とおもう。
で、吉岡さんは「三丁目の夕日」の宣伝でこのファンタジーを楽しんでください、と言っていた。
ま、ほんとに面白い映画だった。だのに、なんで、有名知識人はこの映画をけなすんだ?むっかつく!
あたしはまだ「ALWAYS 続・3丁目の夕日」見ていないけど、茶川の恋について、某批評家が「あの時代はあんなくだらない恋なんてしている時代じゃなかったんだ」とけなしていたけど、おとぎばなしでしょ!ほんとむかつく。
ところで、ちなみに「学校2」の吉岡は中学生くらいにしか見えないんだけど、26.7歳なんだよねえ。名演だよ。名優。ほんと。